がん転移粒子抑えるー免疫細胞活性化に応用も 

がん細胞が放出して転移などを促すカプセル状の微粒子に着目し、がんを治療する研究が相次いでいる。国立がん研究センター研究所などは微粒子が全身へ広がるのを防ぐ技術を開発。新山手病院などは微粒子の性質を利用し、がんを攻撃する免疫細胞の能力を高めることに成功した。微粒子の応用研究が進めば、がんの転移を抑える新しい治療法の開発につながる可能性がある。

微粒子は「エクソソーム」と呼ばれ、脂質の膜でできている。直径50〜100ナノ(ナノは10億分の1)メートルのカプセル状。がん細胞が大量に放出して全身に広がる。微粒子はかつて単に細胞内で不要になった物質を細胞外へ運び出す役割を担うと思われていたが、最近になり、がんに栄養を供給する血管を作ったり、がんを攻撃する免疫細胞の働きを妨げたりして転移や増殖を促すと分かった。血液中の有無を調べてがんを早期発見する研究が盛んだが、治療の研究も進み始めている。

東京医科大の落合孝広教授と国立がんセンター研の吉岡祐亮研究員らは、血液中の微粒子を抗体で捕らえる技術を開発した。表面にあるCD9とCD63というたんぱく質に抗体がくっつく。ヒトの乳がんを移植したマウスへ投与し、転移を半分以下に抑えることに成功した。標的のたんぱく質を増やし、5〜10年後の実用化を目指す。

落合教授は小坂展慶客員准教授らと、RNA(リボ核酸)で微粒子の生産も抑えた。RNAで微粒子を作る遺伝子の発現を抑えたヒトの乳がんを、マウスへ移植して転移を半分以下に減らした。核酸医薬を5〜10年後に実用化する計画だ。

新山手病院の小山義之・臨床医用工学研究室長と大阪府立大学の杉浦喜久弥教授らは、がんを攻撃する樹状細胞に微粒子を取り込ませた。がん由来のたんぱく質を認識して細胞が活性化。これを悪性黒色腫のマウスへ注射したところ、がん細胞の増殖を3分の1に抑えた。5年後に臨床試験(治験)の開始を目指す。

一部のがんは、抗がん剤を細胞外へ排出するなどして生き残る。免疫の攻撃力を高めるがん免疫薬「免疫チェックポイント阻害剤」も効果があるのは一部のがんに限られている。あらゆるがんの転移や増殖を促す微粒子が全身に広がるのを防いだり、免疫細胞の攻撃力を高めたりするのに使うことでがんの転移や増殖を妨げる可能性がある。

出典:日本経済新聞 2018年7月30日朝刊