乳がん後のケアにベンチャーの技

乳がん手術後のケア普及にベンチャー企業が注力している。ブレストケア京都(京都市)は2019年4月にも手術後の患者が使うオーダーメードの人工乳房の制作拠点を東京と横浜に開設する。海外で受注を強化する企業も出てきた。乳がんは術後に乳房の再建手術もできるが体力面の負担があり、こうした製品が広まれば生活の質(QOL)向上の新たな選択肢にもなりそうだ。

ブレストケア京都は人工乳房の制作を京都市内の工房で手掛けてきたが、全国から乳がん患者の要望が多かったため首都圏にも広げる。技術者や営業担当を合計25人程度置く計画。開設に先立ち10月に女性限定で技術者の養成学校を開く。

同社の製品は医療用シリコン製の装着型で、海に入るときなどに圧力に耐えられるように「自分で空気を調整できる独自の仕組みが特徴だ」(林かおり社長)。学校ではかたどりや色づけを教える。ジェルと空気で調節するタイプは1個税別45万円からで、温泉やスポーツ時でも使える。

乳房再建の手術には長期間の入院が必要で、働き盛りの女性にとっては精神的にも負担に感じることがある。装着型の人工乳房を使う40歳代の女性は「社員旅行で傷痕を見ると同僚が驚いて気を遣ってしまう。自分がくつろぐためにも欲しいと思った」と話す。別の40歳代女性は「婚活をまだ諦めたくないと思った」と購入の理由を話す。

石こう型を手掛けるマエダモールド(愛知県常滑市)の人工乳房は3Dスキャナーを使って術後の胸の形を測って設計する。もともと陶器メーカー向けの石こう型の制作が主体だが、技術を生かせるとして11年に人工乳房の制作を始めた。現在全国20カ所近くで相談会を開いており、18年中にも岩手県や宮崎県などに相談員を置く。

海外からの引き合いも強い。03年から人工乳房に取り組む池山メディカルジャパン(名古屋市)は7月30日に香港で、9月には韓国で人工乳房の受注を始める。このほど現地のクリニックなどと代理店契約を結んだ。

中国では30カ所の営業拠点を持つ代理店と契約しており、今後も需要が高まると判断した。装着型で本物に近い質感の人工乳房は、温泉などの文化がある日本で特に精密に作られてきたが、「海外の富裕層の潜在需要も高いことがわかってきた」(池山紀之社長)。

厚生労働省によると、国内の乳がんの女性患者の総数は14年で20万6千人と02年比の1.3倍に増えた。特に30歳代から増えて40歳代後半から50歳代前半の働き盛りにピークを迎える。

もともと国内では腹など自分の筋肉を移植する手術などが保険適用になっていた。13年以降、シリコンなどを胸に入れるインプラントによる再建手術が保険適用になり、この手術件数は17年で約6500件と13年比で27倍に急増し術後ケアの意識が高まった。

ただ、「手術は形成外科の技量で振れ幅が大きく、装着型人工乳房への回帰の動きも出てきた」(池山社長)。患者ひとりひとりに合わせたケアは大手よりもベンチャーが得意とする領域になりそうだが、規模拡大とともに技術者の育成が課題となる。

出典:日本経済新聞 2018年7月28日朝刊